2022年7月25日の現代ビジネスの表題の記事を紹介します。
「男女二人組が抱えていた複雑な事情
ふだん、おもに首都圏のマンション市場に関するさまざまな分析や情報を発信している私は、一般の方からマンションの購入相談を承ることも、業務のひとつにしている。どんな方がどういうニーズで、どのようにマンションをご購入になるのかを知る、いい機会になるからだ。
「この新築マンションを買いたいのですけれど、どう思われますか」
そんな悩みを抱えて、私のところに物件資料をもって相談にやってきた30代の男女二人組には、どことなく陰があった。検討している物件は悪くない。その時点で価格は1億円とちょっと高めだったが、市場は上昇気味なので、引渡の頃には割高感が薄れている可能性もあった。
ところが、資金計画を聞くとちょっとした問題が浮かび上がってきた。男性が以前住んでいたタワーマンションを売却した資金を、購入代金の一部に充当したいとのことだったが……。
「そのマンションは、もう売り出しているのですか?」
「いえ、それがまだ……」
何か複雑な事情がありそうだった。
もしや、と思って尋ねてみた。
「そのマンションの所有者はどなたになっていますか?」
男性は、かなり答えにくそうであったが、少しずつ話してくれた。
夫婦関係が破綻して発覚した問題
売却しようとしているタワマンは3年前に、いま離婚協議中の奥さんとペアローンを組んで購入したのだという。双方4000万円ずつ住宅ローンを組んだので、名義はそれぞれ2分の1。購入後1年半ほどは一緒に暮らしたが、夫婦関係が破綻。男性の方から家を出たという。ということは、男性と一緒に相談にやってきた女性は、新しい彼女? まあ、そういうことなのだろう。どうりで、口が重いはずだ。
「そのマンションは今、どうなっているのですか?」
そう尋ねると、男性は「妻が住んでいますが、まもなく出ていくそうです」と、答えた。
「では、その……前の奥さんは、売却に同意されているのですね?」
その時点で、お互いに弁護士を入れて離婚協議を進めているということだった。マンションの売却については、双方の同意があるが……問題は売却希望額。3年前に新築で購入した時の価格が9000万円。離婚協議中の奥さんは、どうしても1億円以上での売却を希望しているとか。そうすれば、手元にいくらかのまとまったお金が残る、というのが理由らしいが、そのためか、なかなか売れないという。
一方、男性はできるだけ早く売却して、離婚協議も終えたいと希望。「不動産屋さんは9000万円くらいならすぐに売れるといっているので、私はそれくらいでも構いません」というスタンス。最悪、そのマンションの売却が新たな物件の購入に間に合わなくても、資金的には何とかなる見通しもある、という。しかし、男性と一緒に相談に来ている今の彼女は、そこをすっきりしてからでないと新たな購入には踏み込んでほしくない、という意向。
話はかなり複雑化している――。
私はそんな話を聞きながら、心の中で小さなため息をついた。これはいかにも揉めそうだ。
「ところで、そのマンションの権利書はどこにありますか?」
私がそう尋ねると、男性の顔がにわかに曇った――。
離婚協議で揉めないために
「権利書……ですか?」
「はい。物件の引渡しを受けた時に、業者から分厚いファイルみたいなものをもらったと思うのですが、その中に入っているはずの書類です」
どうやら、それはまだ男性が出てきたマンションにあるようだが、その場では確認できない。次回の離婚協議で弁護士を通じて確認してもらおう、ということになった。権利書がなければ売れない、ということはないが、あった方がスムーズだ。
「奥さんには早急にそのマンションから退居してもらうことが先決です。それから物件を不動産屋さんに確認してもらって、売却を進める方がいいでしょう。
奥さんが居住中だと、売却が決まっても退去の日取りなどで揉める可能性もあります。また、奥さんが途中で気が変わるなんてことも……」
売却希望額もしっかり打ち合わせしておく必要がある。奥さんがどうしても「1億円以上」というのなら、1億500万円あたりで売り出して、価格交渉が入っても1億円を死守するように仲介業者に伝えておかねばならない。
そういったことを一通り説明したあと、その日、私のもとに相談に訪れてきたこの男性と新しい交際相手の女性に対し、最後にこんなことを申し上げた。
ペアローンという高リスク
「差し出がましいようですが、お二方はまだすぐにでも新しいマンションが必要、というほど切羽詰まったご様子には見えません。ですので、その協議中のマンションの売却ができるまでは、新たなご購入の結論を急がない方がいいと思います。売却できたあとのほうが、お互いに晴れ晴れとしたお気持ちで新居のご購入を決断できるのではないでしょうか」
そう申し上げると、何となく納得できたようだった。そこで、さらに申し上げた。
「もし、すべてうまくいって、新しいマンションをご購入なさる場合は、どちらか単独のご名義になさった方がいいと思いますよ」
すると、男性がきっぱりとした口調でお答えになった。
「はい。絶対にそうするつもりです」
先日、不動産仲介業の世界を題材としたテレビドラマの中で、嘘をつけなくなった主人公の営業マンが、ペアローンでマンションを購入しようとしている若いカップルに向かって「正直」に、こんなセリフを叫ぶシーンがあった。
「あなたたちは将来離婚するかもしれないのですよ。もし、そうなった時にペアローンはどうするのですか?」
日本では年間で約60万件の結婚があり、離婚は約20万件。単純に考えれば、結婚した3組に1組は離婚するのである。そう考えると、ペアローンというのはいかにもリスクが高い借り入れ方法である。ここ10年の間続いている異次元金融緩和によってマンション価格が高騰。若年層に人気の高い東京の湾岸エリアで供給されるタワマンの価格帯は、7000万円から1億円以上が主流になりつつある。そういうマンションを購入している主流層は、世帯年収が一千数百万円に達する「パワーカップル」だという。ほとんどがペアローンを組むそうだ。
しかし、ペアローンを組んだ彼らの人生が「必ずしもバラ色とはいえない」ということは、覚えておいたほうがいいだろう。」
新築マンションの価格高騰により、ご主人の年収だけではローンが借りられずペアローンを利用する割合が増えています。しかしこの記事にもあるように、現在では結婚したカップルの3組の内1組は離婚する時代です。マンションを買う時には、まさか自分達が離婚するとは思ってないと思いますが、ペアローンには、この記事に書かれたようなリスクがあることを覚えておきましょう。
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