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  • 執筆者の写真快適マンションパートナーズ 石田

築古マンションで多発する水漏れ事故、「管理組合」には何ができるのか?



 2024年3月14日のダイアモンドオンラインの表題の記事を紹介します。


マンションで発生する事故やトラブルの中で、比較的発生件数が多いのが水漏れ事故だ。特に築年数がたった、いわゆる高経年マンションでは給湯管からの漏水が多く見受けられる。今回は、マンションの管理組合が、給湯管を原因とする水漏れ事故に備えて、どのような対応ができるのか考えてみたい。(株式会社シーアイピー代表取締役・一級建築士 須藤桂一)


マンションにおける水漏れ事故の三大原因とは?

 マンションで発生する水漏れ事故でよく耳にするのが、上階の住戸からの漏水が原因で下階に被害が及んでしまい、トラブルになったというケースである。

 例えば、漏れ出した水が下階の住戸の天井からポタポタとたれて、床や家具をびしょぬれにしてしまった場合、フローリングや畳の張り替え、家具の買い換えなど、被害を受けた箇所に対する修理や賠償はもちろん、場合によっては被害に遭った居住者のためにホテルを手配したり、家財の一時的な移動場所を確保したりと、さまざまな費用負担が生じる。

 こうした下階への水漏れ事故は、その原因が誰にあるか(漏水の生じた場所がどこにあるか)で責任の所在が変わってくる。下階に被害が及んだからといって、すべてがその上階の住戸の居住者(区分所有者)に責任があるとは限らない。

 マンションの水漏れ事故は、大きく分類して次の3つの原因が挙げられる。(1)外壁や屋上など、外部からの漏水(2)配管の老朽化などによる漏水(3)上階の住戸の過失による漏水


水漏れ事故の原因や場所で、責任の所在が変わる一番多いのは「上階の住戸の過失」

(1)の主な原因としては、シーリングのわずかな切れ目やタイルの小さな欠け・割れ、防水シートの押え金物の劣化などが考えられる。これらは、例えばある条件(強風、大雨、高湿度など)を満たしたときにだけ漏水が発生することが多く、通常時に原因調査をしても場所を特定することが難しいという特徴がある。

(1)の場合、漏水の発生場所は基本的には共用部分に該当するため、原因調査や水漏れ事故時の賠償などは、管理組合が加入する火災保険(マンション総合保険など)で対応することになる。つまり、例えばある住戸の天井から水が染み出していたとしても、その上階の住戸が責任を負う必要はない。


(2)の場合、圧倒的に多いのが給湯管からの漏水だ。特に、高経年マンションでは建物の老朽化に伴い、給湯管の漏水を原因とする水漏れ事故が多い。

 一般的な構造のマンションでは、給湯管は専有部分にしかない(例外として、セントラル方式の給湯システムを持つマンションの場合、給湯管は共用部分にもある)。個別給湯のマンションでは、給湯器から蛇口(風呂場のシャワー、キッチンや洗面化粧台の水栓など)をつないでいる給湯管はすべて専有部分となり、水漏れ事故を起こした場合、下階の住戸に与えた損害に対しては、事故を起こした上階の住戸の責任で賠償する必要がある。


(3)は、例えば「洗濯機の排水ホースや給水ホースが外れていた」「トイレやキッチンなどの排水が詰まった」「風呂の水があふれた」など、居住者の過失による漏水が該当する。この場合は、言うまでもなく水漏れ事故を起こした上階の住戸が、下階の住戸への賠償責任を負うことになる。


 水漏れ事故の原因として多い順に並べた場合、これまで多くの事例を見てきた筆者の肌感覚でいうと、(3)→(2)→(1)の順になる。(3)についてはほとんどが突発的な事故であり、建物の築年数に関係するものではないが、(1)と(2)についてはマンションの経年によるところが大きいといえる。


築25年以上のマンションは給湯管からの水漏れ事故に要注意

 こうした高経年マンションで発生しやすい水漏れ事故に対して、管理組合としては何ができるだろうか。

 (1)と(2)の場合は、まずはその漏水の場所や原因を突き止める必要があるが、そうした水漏れ原因調査の費用とマンション火災保険の関連について、前回の記事「火災保険料の値上げが止まらない!保険料を抑える『3つのポイント』とは?」で触れているので、関心のある方はご覧いただきたい。

(1)のように共用部分からの漏水が原因の場合は管理組合が対応するべき事案だが、(2)に関しては、前述のように大半が専有部分にある給湯管が原因であり、管理組合が直接介入する問題ではない。

 しかし、建物の経年とともに進む給湯管の劣化によって、水漏れ事故の発生が多くなるうえ、水漏れ事故による賠償問題が居住者間のトラブルに発展することも少なくない。そのため、管理組合としてもできるだけの対応はしておきたいところだ。

 ここでまず給湯管について少し説明しておこう。特に漏水の原因となりやすいのが銅管で、その劣化によって生じたピンホール(小さな穴)が水漏れ事故を引き起こす。そもそもピンホールができるのは、その銅管全体が劣化してきているためで、たとえ該当部分のピンホールを補修したとしても、今度は別の部分にピンホールが生じ、同様の事故が発生しやすくなるという特徴がある。

 築25年以上の高経年マンションでは、かなりの割合でこの銅管が使われている。一方、築15年以下のマンションでは、ほとんどが給湯・給水ともに樹脂管(架橋ポリエチレン管、またはポリブデン管)で配管されており、銅管が使われているケースは少ない。築15~25年あたりのマンションは銅管から樹脂系の配管に移行する時期に該当し、まだ配管の素材や接ぎ手の部品代が高価だったために、その期間で徐々に移行が進んだ形だ。

 高経年マンションでなぜ銅管が多用されていたかというと、当時の配管で主流だった鉄管に比べて、「熱に強い」「腐食しにくい」「殺菌効果がある」という利点があったためだ。特に耐熱性の高さが求められる給湯管の素材として、銅管が多く採用されたという背景がある。だが、鉄管と比較すれば腐食しにくい材質とはいえ、銅管の寿命はあまり長くなく、特に接合部などは20~30年程度で劣化してしまい、やがてピンホールが発生して漏水の原因につながることになった。

 対して、樹脂系の配管素材は、鉄管や銅管と違ってさびや腐食もなく、ピンホールが開く危険性も少ない。接ぎ手部品なども含め、配管の素材としては少し価格が高いものの、耐食性、耐熱性、耐塩素水性、可とう性(柔軟性があり、折り曲げてもポキンと折れない弾性を持つ)があり、強度も優れていることから、現在ではマンションや一般住宅などにおいて、完全に主流の配管素材となっている。樹脂系であれば、漏水リスクは一気に軽減できるうえ、振動にも強いという点で、地震対策の面でも効果が期待できる配管といえる。

 国土交通省の発表によれば、日本全国には2022年末時点で694.3万戸のマンションがあり、そのうち2024年3月現在で、築25年超(1999年以前の竣工)のマンションは350万戸を越えている。今後、何も対策をしないままでいれば、全国各地のマンションで、銅管を使用した給湯管からの水漏れ事故が多発すると言っても大げさではないだろう。


樹脂系の配管素材に取り替えるには?配管更新を促すためにリフォーム規定を工夫する

 高経年マンションにおける水漏れ事故を軽減するためには、銅管を樹脂系の配管に更新する(取り替える)のがもっとも有効な方法といえる。そして、管理組合としては、積極的にこの配管の更新を促すための対応を取ることが望ましい。

 すでに触れたように、大半のマンションでは給湯管は専有部分にあるため、その管理権限は各住戸の区分所有者が有している。管理規約上でも、専有部分の修繕等に関しては、区分所有者の責任で工事することが原則だ。

 区分所有者が専有部分に手を加えるケースで多いのは、室内のリフォームや設備機器(キッチンやトイレ、洗面化粧台、ユニットバスなど)の交換、エアコンや給湯器の交換などである。中でも、キッチン、トイレ、洗面化粧台、ユニットバス、給湯器を交換する際は、そこにつながる給湯管を更新する絶好のタイミングといえる。

 専有部分に修繕等で手を加える場合、区分所有者は管理組合に工事申請をすることになるが、ここで管理組合ができる対応としては、給湯管や配管の更新を前提とするようなリフォーム規程を用意し、リフォームや設備交換の機会を漏水対策につなげることである。

 具体的には、例えば給湯器の交換の場合、工事申請の際に、「交換する部位からメーターと給湯器までの配管の更新が見積もり項目に含まれているか?」という点を必ずチェックし、「配管の更新の可否」についても報告してもらう、という形が考えられる。

 通常、こうしたリフォームや設備機器の交換を、ホームセンターや家電量販店などに依頼した場合、配管の更新までは見積もりの範囲には含まれない。また、建物や室内の構造的に、工事の際に配管の更新まで行うことが難しい場合もあるだろう。それでも、まずは配管の更新を見積もりの範囲に加えてもらい、更新ができる場合には同時に実施してもらうようにするのだ。

 例えば、工事の際、構造的に配管の更新ができる確率が50%で、マンション全体の50%が給湯器を交換している場合、その半数が更新できたとすると、将来の漏水リスクが25%軽減されるという計算になる。


最新の標準管理規約に応じた管理規約の見直しが必須

 現在、多くのマンションではリフォーム規定はあるものの、配管の更新まで盛り込んだ細かな規定を設けているところはほとんど見られない。また、管理規約上、専有部分の配管の更新を円滑に進められない規約になっているマンションも多く見受けられる。

 マンションの管理規約はその大半が、国土交通省が管理規約の標準モデルとして作成したマンション標準管理規約をベースに定められている。2021年6月に標準管理規約が改正され、専有部分の修繕やその管理に関連して、実施主体や責任関係、管理組合(理事長)の権限などを明確化する内容が盛り込まれた。


 少し長くなるが、現在の標準管理規約のうち、専有部分の修繕や管理に関係する規約内容を紹介しておく。

(専有部分の修繕等)第17条 区分所有者は、その専有部分について、修繕、模様替えまたは建物に定着する物件の取付け若しくは取替え(以下「修繕等」という。)を行おうとするときは、あらかじめ、理事長(第35条に定める理事長をいう。以下同じ。)にその旨を申請し、書面による承認を受けなければならない。2 前項の場合において、区分所有者は、設計図、仕様書及び工程表を添付した申請書を理事長に提出しなければならない。3 理事長は、第1項の規定による申請について、承認しようとするとき、又は不承認としようとするときは、理事会(第51条に定める理事会をいう。以下同じ。)の決議を経なければならない。4 第1項の承認があったときは、区分所有者は、承認の範囲内において、専有部分の修繕等に係る共用部分の工事を行うことができる。5 理事長又はその指定を受けた者は、本条の施行に必要な範囲内において、修繕等の箇所に立ち入り、必要な調査を行うことができる。この場合において、区分所有者は、正当な理由がなければこれを拒否してはならない。(敷地及び共用部分等の管理)第21条 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等の管理のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。

 しかし、管理規約が古いままの場合、専有部分の更新工事に管理組合が手を出せない規約になっているケースが多い。特に高経年マンションの管理組合では、古い管理規約のまま運用しているところも少なくないため、早い段階で管理規約の見直しを行うことをお勧めする。


管理組合の前に立ちふさがる配管更新への高いハードル

 標準管理規約の中で特に注目したいのが上記の第21条2項で、2021年6月の改正の際に以下のコメントが出されている。

「第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。なお、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要である」

 上記のように、今回のテーマとしている給湯管(配管)の更新も、共用部分との兼ね合いで、管理組合での対応が可能であることがはっきりと規定されている。そこで、管理組合としては積極的に専有部分の配管の更新を促したいところだが、そこで直面する問題が出てくる。

 まず、配管更新は室内での工事である点だ。床や壁、天井を解体しながら配管を更新していくが、工事には当然、お金がかかる。解体費、下地やボード代、仕上げの復旧工事費について、どこまでを管理組合の積立金会計でカバーし、どこまでを区分所有者の負担とするのか、という点を明確にする必要がある。

 しかし、配管更新の方針を考え、管理組合と区分所有者それぞれの負担率を決め、それを総会で承認してもらうことが必要で、実現するにはかなり難易度が高いといえる。

 何より大きな問題なのが、専有部分の配管更新に充てるお金がない、という点だ。長期修繕計画上、専有部分の配管更新は予算に含まれていないため、更新費用を拠出できるような経済状況にないマンションがほとんどだろう。

 建物の構造や規模によって状況は異なるが、専有部分の給水管、排水管、給湯管といった配管を更新する場合、その費用はおおざっぱに見積もって、おおむね1戸あたり50万~100万円程度と想定される。100戸のマンションであれば、5000万~1億円という大きな支出になる計算である。おいそれと出せる金額ではない。

 また、高経年マンションの場合、専有部分をスケルトンリフォーム(既存の床や壁、天井などをすべて撤去し、躯体のみの状態にするリフォーム)している住戸があるはずだ。リフォームの際、全配管の更新も行っている場合が大半だが、管理組合が専有部分の配管の更新に着手する場合、更新済みの住戸の取り扱いをどうするかという点も問題になってくる。

 先に紹介した2021年6月改正時のコメントにも「先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要」とあり、更新費用だけでなく、考慮しなければならない問題の多さもうかがえる。

 今回は、給湯管の劣化による水漏れ事故について、管理組合としてできることを考えてきた。結論としては、管理組合として水漏れ問題に対応することは望ましいものの、現実的には「詳細なリフォーム規程の設定」「管理規約の改正」「配管更新を見据えた修繕積立金の予算立て」など、乗り越えなければならないハードルがいくつもあるといえる。

 しかし、高経年マンションに限らず、マンションの将来を見据えたときに、管理組合には、考え得るあらゆる対策に積極的に取り組む存在であってほしい。その対策の結果が規約改正であり、管理費や修繕積立金の値上げとなっても、“攻め”の姿勢でマンション管理に向き合う管理組合の存在が、マンションのコミュニティーを成熟させ、マンションの価値を高めることにつながると筆者は考えている。」


 給湯管に使用されている銅管からの漏水は確かに良く発生する事故です。この記事では20年~30年での交換を推奨していますが、専有部の配管は、本来修繕積立金で交換するべきものではなく個人で修繕すべきであり、また交換にあたっては、床や壁・天井、ユニットバスやキッチンも取り外す必要があり、管理組合としてもハードルが高い工事になります。実際の交換時期は、20年とか30年にとらわれず、マンション内で漏水事故が年に数件発生するようになってからでも良いように思います。

 この記事にあるように、マンション内のリフォーム工事時に入居者に交換してもらう制度を考えるのは有効だと思います。以前聞いた築年数の古いマンションでは、入居者が専有部リフォームと併せて、給排水管の交換を実施する際には、20万~30万円の補助金を管理組合が支給していたマンションもありました。

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