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「鉄筋は切断され、地下には水たまりが…」開かずの間となった「東急不動産の高級マンション」で住民らを襲った「悪夢の光景」

  • 執筆者の写真: 快適マンションパートナーズ 石田
    快適マンションパートナーズ 石田
  • 3月25日
  • 読了時間: 26分

更新日:4 日前



 2025年1月8日の週刊現代の表題の記事を紹介します。


開かずの間となった高級レジデンス

 東京都・世田谷。日本屈指の高級住宅街と知られるこの場所で今、開かずの間となっているマンションがある。

 その名は「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」(以下、フロレスタ)。地上8階建て、敷地面積は約1560平方メートルで部屋数は49戸にのぼる分譲マンションである。竣工は1998年10月。事業主は東急不動産、設計・施工は東急建設、さらに販売代理は東急リバブル、建物管理を担うのは東急コミュニティーというオール東急グループの建造物だ。環状七号線沿いという立地も相まって多くの購入者で賑わった人気物件だった。

 ではなぜ、そんな高級レジデンスは無人となってしまったのか。そこにあったのはフロレスタに隠されていた施工不良の数々、そして建物自体が違法建築という重大な問題だった――。

 ことの発端は05年まで遡る。管理組合の理事長が語る。

「マンションの入居は1998年12月からスタートし、管理組合は1999年2月に設立しています。その後の2005年に姉歯建築事務所による一連の耐震偽装問題が発覚。いわゆる『姉歯事件』として社会問題となりました」

 姉歯事件は、当時の姉歯設計事務所が建設時に必要な構造計画書を意図的に改ざんし、建物の耐震性を偽造。建築基準法を満たさない建造物が複数存在していることで世間を震撼させた出来事だ。


「問題はない」という東急の回答

「一連の問題を受け、フロレスタの構造は大丈夫なのか不安を覚えました。そこで2005年12月に組合として販売元だった東急不動産に『このマンションは建築構造上、問題はないのでしょうか』と問い合わせを行いました」(前出・理事長)

 翌年3月、東急不動産から管理組合宛て送られた書面には『構造の安全性につきましては国土交通省が現在確認検査機関に求めているチェック項目に準じて行いました。(中略)構造計算と構造図との断面諸元の照合、構造詳細図の確認を行いました』と記されている。

「つまり『構造書類を確認したが、問題はない』という内容でした。世の中も大騒ぎしていましたから、文面を読んで一安心しました」(前出・理事長)

 平穏な毎日を取り戻した住民たち。しかし、2018年のある問題を皮切りに事態は一変する。マンション住民の一人が語る。

「新築当時から1階の住民たちの間で『床や部屋の壁にカビが発生する』との声が挙がっていました。しかし、原因が不明だったので、住民が東急グループの管理会社に連絡を入れた。担当者が部屋に来たのはいいものの、壁紙やボードを剥がして確認しても結論は分からずじまい。しかも管理会社は剥がした壁紙を修復もせずに帰って行ってしまった。1階の住民は長年、壁紙が剥がされたままの部屋で暮らしていました」


「もう見終わったんですか?」

 たまりかねた住民が管理組合に相談。そこで初めて事態を把握した組合側が東急不動産に再調査を依頼した。

「東急不動産の担当者に加え、施工担当だった東急建設の職員も現場に来ました。そこで地下ピットの検査を行うことになった。組合関係者も一緒に入ろうとマンション内で待機していたんですが、東急側は『安全かどうか確認が取れていない』と立ち入りを拒否。組合関係者も従うしかなかった。

マンションの建築面識だけでも900平方メートル以上ありますから、地下全体をくまなく調べるとなると少なくとも30分から1時間ほどかかるはず。でも職員たちが5分も経たずに上がってきた。驚いた組合関係者が『もう見終わったんですか?』と尋ねると『はい』と答える。『どこまで見たのか』との問いには曖昧な返事をするだけでした。つまり地下ピットの手前までしか確認していなかったんです」(前出・住民)

 しかし、ここでも東急の担当者は驚きの検査結果を告げる。

「担当者は『確認すると地下には断熱材が張ってあったので大丈夫です』と説明していました。組合関係者も『断熱材とカビの発生と何の関係があるんですか』と言葉を返したが、とにかく『断熱材があるから大丈夫です』の一点張り。そのやり取りを続けていると、最終的に東急サイドから『でしたら組合で調べてください。問題があればこちらで対応します』との返事がありました」(前出・住民)

 早速、組合は予算を編成し、民間の調査会社に依頼。そして2019年3月、外部の調査員ともに組合の担当者らが問題となるマンションの地下ピットへと足を踏み入れた。だが、そこに広がっていたのは住民らの想像を超える光景だった。実際に調査に同行した住民の一人が語る。


地下に広がっていた「光景」

「設備の配管は整理されておらず、入り乱れていました。ガス管は紐でくくられているだけで、宙ぶらりんの状態でした。電気や水道管も同様です。通常、配管はフックで固定されるものですが、地下にはフック自体が取りつけられていなかった。当然、垂れ下がった状態の管はそれだけ水漏れやガス漏れが起きるリスクは生まれます。

 くわえて建物の基礎を繋げるはずの地中梁には強引に配管を通そうと複数の穴が開けられていて、なかにある縦横の鉄筋がくりぬかれるように切断されていた。建物は鉄筋が繋がっていることで強度を保つ作りになっていますから、切れていればそれだけ建物の基礎が弱くなる。地震が来れば崩壊する可能性が高くなります」


 さらに調査を進める住民たち。そこでようやくマンション1階を侵食するカビの原因が判明する。

「地下ピット内にはいくつもの地下水による水たまりができていて、それがカビを発生させる要因となっていました。調べてみると施工ミスで屋上に降った雨が地下ピットまで流れ込んでいました。元々、地下ピットは防水シートも被せていないので、水を入れる仕様にはなっていません。地下に溜まった雨水を排水しきれず、結果として1階の家はいつもカビていたんです」(前出・調査に同行した住民)

 まさに施工不良の魔窟と化したフロレスタの地下ピット。目を覆うような景色に言葉を失うばかりの住民たちだったが、この惨状はこれから起こる悪夢の序章に過ぎなかった。


悪夢の始まり

 2019年2月、目を覆うような施工不良を目の当たりにした住民たち。前編で報じた地下ピット内での施工不良とは別に浮上したのが耐震スリット問題だった。

 耐震スリットとは建物内の壁や柱にあえて切れ目を入れる施工で、地震の横揺れの緩衝材としての役割を果たすとされている。日本では1981年の建築基準法の改正から新耐震基準として導入されている手法だ。組合関係者が語る。(以下、「」は組合関係者)

「当時、大手デベロッパーの販売したマンションなどで耐震スリット不足が指摘され、ニュースでも大々的に報道されていました。ちょうど地下ピットの件もあり、不安を覚え、東急不動産に『スリットも確認してもらえませんか』と要望を入れました。向こうはいつもの調子で『組合で調べてください。問題があれば対応します』との返答でした」


「全然ダメです」

 そして2019年9月、地下ピットの際に依頼した民間会社とともにスリットの調査を開始。組合だけの費用でマンション内すべてを確認するのは難しく、1階だけの簡易検査を行った。

「1階を調べるだけでも『全然ダメです。スリットが入っていません。探しても見つかりません』という結論になりました。すぐに報告書を作って東急サイドに渡すと『こちらで調べます』という対応になりました」

 スリット不足の疑念が生まれ、心配する住民を前に東急の担当者は依然として強気な姿勢を貫いていたという。

「東急は『このマンションは世田谷区が認めた建築物です。区の検査だってあるわけですから、問題はないです』と言うばかり。でも地下ピットの施工不良もありましたし、不安は消えませんでした」

 実際、フロレスタは優良建築物等整備事業として国、都、区から総額で約1億5000万円の公的補助を受けている。いわば行政のお墨付きがあるマンションと呼べる存在だった。当然ながら補助金はすべて国民、都民、区民らの血税から捻出されている。

 あくまでも世田谷区認定のマンションだから安心安全だという説明を繰り返す東急サイドだったが、2020年以降の調査で住民たちはまたしても裏切られることとなる。


「すべての数字が合わない構造」

「スリットの確認をするにあたり、民間会社とともに区の確認申請の際に提出したマンションの構造計算書と構造図を見比べてみました。構造計算書は簡単に言えば建物を作る際に『こういう構造で作れば大丈夫です』とコンピューターによって試算されたデータ図面で、構造図はその計算書を元に書き起こしたもの。

 すると計算書にあるスリットや柱に入っている鉄筋の数と構造図に記載された数字が合わない。計算書では合計110ヵ所のスリットが構造図になると183ヵ所になっている。これでどうやって区の申請が下りたのか不思議で仕方がありませんでした」

 図面の調査と並行して行われたのが実際の建物に入っているスリットの確認だ。2020年1月、フロレスタの大規模検査が行われる。だが、ここでも住民らと東急との攻防戦が繰り広げられる。

「今度はすべての階をくまなく調べました。一般的にスリットは30ミリ以上ないと効果がないと言われていますが、フロレスタは10ミリ程度の幅しかなかった。東急の担当者らはスリットの幅を調べるためにアイスピックを使って図っていましたが、住民が確認すると斜めに刺して幅の数値が広くなるような状態で計測していた。

 その場で組合関係者が『これ、10ミリもないからダメですよね』と指摘すると担当者も『はい』と答えていました。そもそもスリットが入っていない箇所も複数確認されています」

 こうした図面確認、そして現地調査で判明したのは住民にとって耳を疑う内容だった。


「誰が本当の構造を理解しているのか」

「まず構造計画書と構造図のスリットや鉄筋の数が合わない。そこにきて今度は構造図では183ヵ所あるはずのスリットが実際には126ヵ所しか入っていなかった。つまり計算式のもと『これで大丈夫です』とコンピューターが算出した構造計画書から書き起こした図面がなぜか変わってしまい、さらに建築時には構造図とも違うマンションが建てられていたということになります。

 もはや誰がこのマンションの本当の構造を理解しているのか分からない状態になっていたんです。それは同時に誰もフロレスタの安全性の担保ができていないことを意味しました」

 この結果を受け、東急不動産と東急建設は2020年6月に住民説明会を実施。構造計算を再試算した結果を提示した。

「説明では『構造計算を再試算した結果、一次設定の判定ではNGが出たが、二次設定の判定ではOKが出た』とのことでした。一次設定はいわゆる中規模地震で一部崩壊するかどうか、二次設定は大規模地震で建物が崩壊、倒壊しないかを計る基準になります。東急側は『マンションにはスリットが何ヵ所入っており、倒壊崩壊の危険はないとの判断がコンピューター上でも出ている』という話でした」

 しかし、この計算を不審に感じた組合側が検証を求めると、ここでもまた驚くべき事実が次々と露呈していく。


わざわざ「手入力」

「東急側が出した数字に違和感を抱き、細かく資料を見比べると、その度に担当者の説明が二転三転しました。そこで3ヵ月間かけて何度も再計算を要請し、実はコンピューターで再計算した数値を東急側がわざわざ手入力で入れ替え、判定結果を出していたことが判明しました。

 手入力を行ったことは東急の担当者も当初には説明していません。どうしてコンピューターで計算した数値をあえて手で入力し直さなければならないのか。そうしなければならなかった理由があったとしか思えない」

 これまで「区の認可が下りた建物だから大丈夫」と話していた東急不動産の担当者も結果を受け、こう口走るようになったという。

「手のひらを返したかのように『どうして区はこんなマンションを建てたんだ』と言い出した。もう唖然とするしかなかったです。行政に申請を出したのは東急不動産。どうして書類を出したはずのあなたたちが被害者のような態度を取れるのか。理解に苦しみます」

 すると2020年12月、東急不動産は部屋の買い取りを含めた大規模補修を行う方針を表明。しかし、ここからトラブルは国や区を巻き込んだ大騒動へと発展していく。


「区を訴えたりしませんよね?」

「大規模補修を行うと言っても、そもそもフロレスタはすでに構造上の問題がある建物です。どうやってその安全性の認可を取るのかが不明でした。そこで住民の一人が確認にために国交省に連絡を入れると『フロレスタはすでに住民からの通報を受けており、世田谷区に下ろしています。すぐに区に電話してください』との答えがあった。

 言われた通りに一報をいれると今度は世田谷区から『すぐに来てほしい』と急かされる。実際に区役所に行くと、8人ほどの職員が出迎え、『区を訴えたりしませんか?』と切り出してきました。住民も呆れながら『訴える暇なんてありません。とにかく助けてください。区としてすぐに対応してください』と伝えました」

 その後、組合、東急不動産、世田谷区の3者による面談を開催。施工不良の現状と今後について話し合いを重ねた。

「その場には東急建設の当時の現場主任も出席していました。本人は泣きながら『すみません』と謝罪していましたが、実際に組合関係者が『現場で何が起こっていたのか』と尋ねると『覚えていません』と答える。結局、納得できる説明はありませんでした」


そして誰もいなくなった

 こうして数ヵ月におよぶ協議の末、ようやくマンションの建て替えが決定した。

「建て替えも東急は『社内で検討した結果、同じ建物が建設可能との判断が出た』と言い出して、目が点ですよ。組合も『いやいや、そもそも構造計画に問題があった可能性が高いから、同じモノは無理ではないか』と伝えましたが、東急は聞く耳を持たず。結局、同じ建造物を建てるということで計画がスタートしました」

 合わせて行われたのが住民らの転居だった。東急不動産はマンションへの安全性が担保できないという理由から全住居の避難を提案。2021年には住人全員が退去を完了させ、建物は鉄骨補強が行われた。

 かくしてフロレスタは文字通りの「開かずの高級マンション」へと様変わりしたのである。だが、変わったのは建物の無人化だけではない。欠陥住宅だったレジデンスはある出来事をきっかけに違法建築物へと姿を変える。

「建て直し計画にあたり東急不動産は2021年12月に再度、敷地の測量を行いました。しかし、いくら待っても肝心の測量結果を出してこない。設計を請け負った東急設計コンサルタントも痺れを切らして、測量図を催促する始末でした。東急不動産は『出します』と口ではいうものの、その後も数ヵ月にわたって測量図を提出しない。結局、組合側が『いい加減にして欲しい。測量図がないと話が進まない』と急かして、やっとの思いで図面を提示させました」

 だが、そこに記されていたのはマンションが「違法」であることを裏付ける決定的な証拠だった。


説明会には社長らも出席

「測量図を受け取った設計会社の担当者から『大変なことが起きている。北向きが違う』と組合の関係者に連絡が入りました。実際に組合関係者が測量図を確認すると真北が実際の建物よりも西に14度ズレていることが発覚。これによりフロレスタは建築基準法の高さ制限を超えている建造物となりました。

 仮にマンションを正しい方角で建てるとなると部屋数は現在の49戸から30戸程度しか確保できないという試算結果がこの時点で出ています」

 一転して違法建築という烙印を押されてしまったフロレスタ。組合関係者はすぐに東急不動産へと連絡し、事情を説明。すると問題発覚から1ヵ月後となる2022年9月、東急が切り出したのは「住民の方々に説明する場を用意したい」という言葉だった。

「とは言っても発覚から1ヵ月しか経っていない。一体何を説明するのか意図を図りかねました。東急側は『社長を交えた社内調査委員会を作った』とは言うが、肝心の内容については『説明会で話をします』と繰り返すだけでした」

 同月、2日間にも及ぶ住民説明では東急建設の寺田光宏社長(62)や同社の副社長、さらに東急不動産からは当時の岡田正志社長(62)を筆頭に常務なども出席し、謝罪が行われた。しかし、違法建築の原因については到底、住民らが納得できるものではなかったという。


「死人に口なし」

「説明会では、建物のズレについて社内調査委員会の弁護士が『真北測量のミスで、その測量士はすでに亡くなっており、会社も現在はない』と説明しました。いわば死人に口なしで、真相は分からないという結論です。当然、説明会は紛糾。結局、12月にも同様の場を設け、東急側が調査を行ったうえ、報告書を住民に共有することで決着がつきました」

 この取り決めにより東急不動産、東急建設の両社がそれぞれの報告書を作成。すると、そこにはこんな奇妙なやり取りが残されていた。

「開発当初の議事録を見ると関係者による『フロレスタは思い描く建物が作れず、事業化は難しいだろう』という旨の発言が記録されていました。しかし、具体的な理由は書かれていないものの、ある時を境に突然『建つようになった』と空気が様変わりしています。なぜ事業化が難しかったはずのフロレスタが突如、建築できるようになったのか。不思議としか言いようがない」

 報告書の開示を終え、ここから再度、建て替え計画へと舵をきったフロレスタ。しかし、ここでもまた新たな問題が再燃することとなる。


「何が起こっているのか分からない」

 マンションの管理組合の関係者が語る。

「建て直しに関する東急不動産の敷地測量で、建物の真北が西に14度ズレていることが発覚しました。これによりフロレスタは建築基準法の高さ制限に引っかかり、違法建築物に。判明後の検証で、同様のマンションを正しく建てるとなれば現在の49戸から30戸程度しか確保できない構造になる試算結果も出ていました。

 さらに東急不動産はスリット不足などの施工不良に関しても『社内チームの検討で、同じ構造物を作ることが可能という結果が出た』と説明。住民側は『以前の設計図では耐震性や設備に問題があったわけですから、難しいのではないか』と投げかけましたが、東急側は同じ建物という路線を変更せず、計画を推進しました。しかし、建て替え計画が始まってすぐに設計会社の方から『やはり同じものを建てるのは難しい』との判断が出ています。もはや何が起こっているのか分からない状態です」


突然の「通知」

 違法建築問題により暗礁に乗り上げていた建て替え協議が再スタートを切ったのは2024年2月だった。東急不動産から建て替えにまつわる事業協定の延長と今後のスケジュールについて提案を受けた組合は総会を経て内容を承認。ここでようやく棚上げを余儀なくされていたフロレスタの本格的な再建へと舵をきったのだ。

 この時点で、すでに仮住まいから2年以上が経過しており、住民らの心労もピークに達していた。だが、ここからさらなる悲劇がフロレスタを襲う。

「合意から1ヵ月後となる今年3月に突然、東急不動産が『建て替え事業は断念し、事業協定の更新は行わない』との通知を組合宛てに送り付けてきました。さらに今後は東急不動産が部屋の買い取りを行い、応じない場合は法的措置を取ってでも現在の仮住まいから出て行ってくださいとの旨の通達を出してきた。

 あまりに突然かつ一方的な要求に言葉を失うしかありませんでした。問題を引き起こしていた張本人がどうしてここまで強気の要求ができるのか。住民たちからすると全くもって納得できません」(前出・組合関係者)

 組合として事業延長の承認を出したのが2月25日。わずか1週間ほどで東急不動産は前言撤回を行い、取り壊しの方針へと変更したことになる。まさしく急転直下の出来事だ。住民の一人が言う。


「選択肢が残されていない」

「東急不動産は買い取りをあくまでも提案と言っていますが、実際は組合との話し合いには一切応じていません。それでいて住民個々の仮住まい先には売買を急かす手紙を何度も送りつけてくる。うちの妻はその手紙を見るたびに気が滅入ってしまい、ノイローゼ状態になっています。一部の反発した住民は『だったらあなたたちには売らず、フロレスタに戻ります』と伝えると今度、東急は『戻らないでください』と言う。結局、こちらには家を売るしか選択肢が残されていないんです」

 さらに東急は「今年の12月20日までに現在の買い取り内容に応じない場合は提案内容を変更する可能性がある」と住民らに説明している。

「期限を設けて、内容を変えるなんてまるで脅しのようなやり方ですよ。現在、30戸以上が買い取りに応じていると報道にもありましたが、合意した住民のなかには『もう東急の対応に心が折れてしまった』『これ以上、東急と関わりたくないし、大事な時間を取られたくない』と組合にこぼしています。みんながみんな喜んで売っているわけではなく、なくなく自宅を手放している人たちもいるんです。

住民たちにはすでに近所の学校に通っているお子さんがいる家庭もあれば、終の棲家のために購入した2人合わせて180歳に迫るという老夫婦もいます。組合としては従来の約束通り、個数が少なくとも建て直しを行ったうえで住民と買い取り交渉を行うべきだと今後も主張していきます」(前出・組合関係者)


「隣のマンションと間違えました」

 不可解なのは前編で触れた構造確認だ。2005年の姉歯事件を受け、翌年、組合側は東急不動産に「マンションの建築構造上、問題はないのか」という問い合わせを行っている。その際、東急不動産から管理組合宛て送られた書面には「構造の安全性につきましては国土交通省が現在確認検査機関に求めているチェック項目に準じて行いました。(中略)構造計算と構造図との断面諸元の照合、構造詳細図の確認を行いました」と記されていた。

 つまりフロレスタについては確認したが、構造の問題はなかったと明言していたはずだった。しかし、蓋を開ければ住民の想定以上となる施工不良の数々が発見されていった。その理由を組合関係者が明かす。

「もちろん東急不動産側には『あの時の確認では問題はないと言っていたじゃないですか』と尋ねています。向こうの返答は『隣のマンションと間違えていました』というもの。隣は5階建てでフロレスタは8階建てです。どうやったら間違えるのか。構造の確認で階が違うものを見ても気が付かないなんてあり得ないですし、仮に事実だとすれば、そんなずさんな確認作業を行っていることの証拠になります」

 さらに住民の一人はこうも訴える。

「この問題はフロレスタだけではなく東急の企業体質が大きく影響し、起きたことだと思っています。東急の手掛けるドエル・アルスシリーズは全国にも展開しており、姉歯事件同様、他のマンションでも同様の施工不良が起きていないとは断言できない。特に耐震性については人命に関わる大事な問題です。他の東急の物件に住む住民や組合自らの早急な点検が必要だと感じます」

 昨年12月11月には管理組合と弁護士らが会見を開催。これまでの経緯を説明したうえでフロレスタの構造問題、そして東急不動産の対応について怒りを滲ませた。果たして東急不動産は住民たちの訴えをどう受け止めるのか。昨年12月24日、同社に連絡を入れると以下の回答があった。


東急不動産との一問一答

―一連の施工不良についてご見解をお聞かせください。

「建物の構造については専門的な分野になり、またマンションの検査は東急建設が行っております。ただ、施工不良に関しては我々も把握はしております。それに対して住民の方々や周辺の方にご迷惑をおかけしているのは確かなことです」


―施工不良の原因についてお聞かせください。

「原因については施工を担当した東急建設が調査を行っていると認識しております。もちろん発注側の我々にも責任はございますが、具体的になぜ発生したのかという点については東急建設が調査、解明しているところです。これまでにも調査報告は上がってきておりますし、当然ながら様々な関係機関にも東急建設側が説明を行っていると思います」


―2006年に「構造確認を行った」との文書を組合に送付したが、実際には隣のマンションと取り違えて確認を行っていたのは事実でしょうか。

「文書は弊社が出したもので間違いありません。そのように住民の方にご説明したのは事実です」


―真北のズレの原因についてお聞かせください。

「原因については調べていました。東急建設も設計管理は別の会社に発注しておりましたので、そこで原因究明がなされていたと思います。当時、測量された方が亡くなっているのは事実です」


―建て替えから一転、取り壊しとなった理由についてお聞かせください。

「建物が完全に安全ではないということで、住民の方々には2021年4月以降で一度、仮住まいに退去いただいております。その調査のなかで建て替えをする際に真北のズレが見つかり、その問題を是正して新しく設計をすると49戸の建物が建たないという状況になりました。元のような大きな建物に戻せないということで、どなたが戻って、どなたが戻らないといった住民の方のなかの不公平が生まれかねないと考えています。

 現在、マンションは補強を行っておりますが、違法建築状態であるものを我々としては早く解決したいと思っておりますので、建て替えから買い取りに変更しました。なぜ買い取り期日を設けているかについては、すでに49戸のうち、30戸以上は買い取りが決まっております。残りの住民の方にも当社の提案にご納得いただけるよう個別で交渉しております。そのなかで早めに買い取りを決めて頂いた方と現在も仮住まいに住んでいらっしゃる方もいます。そこで住民のなかでの不公平が生まれる可能性がありますので、期限を切って交渉させていただいているのが現状です」


今後は全くの白紙

―期限を区切った理由についてお聞かせください。

「早期の買い取りをしたいというのが我々の思いでして、条件を変える期限を設けさせていただいております。一方で期限は区切ってはいますが、住民の方々とは個別の交渉で様々なお話し合いをさせていただいております」


―組合、住民への取材のなかでは「従来通りの建て直しを行い、その後に住民と買い取り交渉を行うべきではないか」という声もある。その点についてお聞かせください。

「今の方針としましては買い取りさせていただいて、現在のマンションでは耐震構造上、問題がありますので、解体して早期解決するというものです。1998年に建設し、長く住まれている方がいらっしゃり、また思い出が詰まっている場所というのは理解しております。我々も非常に心苦しいですが、実態として法令違反があるわけで、そういう建物を残しておくのは周辺の方々にとっては不安だと思いますので、住民の方と個別具体的に交渉している状態であります」


―取り壊した後の土地はどうする予定でしょうか。

「全くの白紙の状態です」


―フロレスタ以外にも「東急ドエル・アルスシリーズ」は全国各地に建設されているが、他のマンションの点検は行っているのでしょうか。

「すべての物件で異常がないかどうかはモニタリングなど定期検査、また特別な事象があれば特別検査を実施しております。また同様の事象が起きているという報告は現時点では上がってきておりません」


―フロレスタの件があって再度、点検を行っているのでしょうか。

「常にしております。もちろん今回の問題があったということで点検は行っていますが、ひび割れなど施工不良の予兆についても常にモニタリングしております」


―世田谷フロレスタもその「常にモニタリングするマンション」に含まれていたはずだが、なぜ施工不良の発見に時間がかかってしまったのでしょうか。

「建物の異常が起きた時に関して我々が対応するということになっておりまして、何も起きてなければ何も起きてないだろうということになります。ですので、そのマンションで『こういうことが起きましたよね』『こういうことがおかしいですよね』というものがなければ、そこの部分は基本的にあったものを対応していく形にしております。他社の物件の事例なども参照しながらモニタリングしている状態です」


―会見など会社としてのご説明を行う予定はあるのでしょうか。

「今のところ予定しておりません。理由としましては、分譲マンションの場合は販売すると住民の方、管理組合の方に権利が移ってしまいます。そのなかで我々が会見を開いて何かを説明してしまうと他人の資産を棄損してしまう可能性がありますので、住民の方々と水面下で交渉を進めていたのが事実であります。今の状態にあっても現在も交渉を進めておりますので、こちらでリリースを出したり、会見を行う予定はございません」


―取材のなかで、問題発覚後の東急不動産の対応について納得がいかない住民の声も把握しております。その点についてのご見解をお聞かせください。

「我々としては調査して、その結果をお知らせするなど段階を踏んでご説明している流れではあります。ただ住民の方のご心労をおかけしているのは確かです。我々としては個別の交渉で早期解決のために努力を続けております」


「これは企業体質の問題です」

一方、施工を担当した東急建設はこう回答した。

―組合の会見内容についてご見解を聞かせてください。

「今回の件で住民の方にご迷惑をおかけしていることについてお詫びを申し上げます。会見の詳しい内容自体は把握しておりませんが、施工不良、施工の不具合があったことは事実でございます。その点については事業主である東急不動産とも連携しながら対応している状況でございます。引き続き誠意を持って対応していきたいと考えております」


―施工不良の原因についてお聞かせください。

「大変恐縮ではございますが、個別の工事の内容についてはこれまでも開示をしておらず、詳細については回答していないことをご了承ください」


―真北のズレの原因とご見解をお聞かせください。

「個別の内容になりますのでご回答は差し控えさせてください」


―今回の問題を踏まえドエル・アルスシリーズの点検は行っているのでしょうか。

「会社としてこのような施工があったことは非常に重く受け止めております。品質自体は当社にとって非常に重要な要素になります。全社での体制の整備、従業員教育を引き続き実施し、再発防止に努めて参りたいと思っております」


―自治体への報告はどのように行っているのでしょうか。また公金補助の返金についてのご予定はあるのでしょうか。

「個別の内容ですので回答は差し控えさせていただきます」


―記者会見のご予定はあるでしょうか。

「会見の予定は今のところございません。今回の件で住民の方にご心配をおかけしたことはお詫びを申し上げたいと同時に今後、このようなことが起きないように再発防止に努めて参りたいと思います」


 取材に応じた住民の一人はこう苦しい胸の内を明かす。

「地下ピットの一件から組合側は東急と1ヵ月に1度の話し合いを続け、次々と噴出するトラブルで2週間に1回、1週間に1回のペースになっていった。それが7年間です。そして最後は『やっぱり建て壊しますので、出て行ってください』のひとこと。私たちが怒っているのはなにもフロレスタの施工不良についてではありません。住民の感情を逆撫でするような東急の対応に憤っているんです。これは企業体質の問題です。買い取りの期限は遅くても今年の秋頃を予定しています」(前出・組合関係者)

 施工不良、耐震構造の不備、そして違法建築という三重苦を生み出した東急。グループの理念である「美しい生活環境を創造し、調和ある社会と、一人ひとりの幸せを追求する」という約束が果たされる日は来るのだろうか。」


 この記事のマンションは1998年竣工のマンションなので築27年のマンションになります。東急グループの対応の不手際から、組合員が不審になり、結果、次から次へと問題が噴出してきました。構造スリットが設計図通リに入っていないマンションは、他のマンションでもあると思います。余計な水平力がマンションの雑壁等に発生し、非構造部材のひび割れが発生するおそれはありますが、建物が倒壊するようなおそれはありません。また比較的簡単に改修工事ができるので、建て替えまでする必要はないと思います。今回建替えの決断に至ったのは、地中梁に後から穴を開けて、鉄筋の主筋を切断した方が重大な瑕疵だったのではないでしょうか?また建替えの過程で、真北の測量間違いが発生し、事業化の断念に至ったのだと思います。土地の価値を上げる目的で意図的に真北を誤ったようにも思います。しかも14度も違えば、設計者も役所も容易におかしいと思ったと思うのですが、実際に土地代が高い首都圏では、同様のケースの分譲マンションも他にもあるのかもしれません。


 

 
 
 

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